醒睡笑 56
夜が更ける頃。少年はかねてより思いつることをなそうとしていた。
こっそり部屋を抜け出し、足音を殺しながら階段を下りた。両親が寝静まるタイミングを待っていたためばれる心配はない。
庭へ出て、物干し竿を盗むと空へ向けておもむろに振り回し始めた。
想定外であったのはその音である。ぶおんぶおんと風を切る音がするが、夢中な少年には聞こえなかった。
2階で寝ていた父親はその不審な音で目を覚ました。窓から見ると庭で息子が呆けた面で棒を振っている。いよいよきたかとぞっとしたが努めて冷静なトーンで尋ねた。
「何しとん?」
ふいに背後から声がしたので思わず手を止めたが、ことのほか冷静な父を見て正直に告げた。
「いやね、星が欲しいからこれで叩き落そうとしとったんよ。でもあかん。全然おちてこん」
「何事かと思たらそんなことか。あいかわらずアホやな。そんなとっからじゃ届くわけあらへん。屋根へのぼれ」